『アメリカ素描』 司馬遼太郎

 物語ではなく新聞連載のエッセイ。しかしこれがなかなか深い。

4101152365アメリカ素描 (新潮文庫)
新潮社 1989-04



 なんか最近また司馬ブームっぽい感じになってますね。ちなみにこの本はまったく関連してません。FC東京関連はあと移籍の件を書きたいんですが、それは後日。本の感想が結構たまってるんで年末年始でぽつぽつ書いていきます。

 本書は昭和60年(1985年)にアメリカ旅行した著者が読売新聞に連載したもの。アメリカのある側面を描きつつも、さすがに東アジアの歴史に精通している人だけに、その辺りを引き合いに出した比較話が面白い。もう四半世紀も前の見聞記なのだが、そこに書かれる根っこの部分は間違いなく今も通用する話だった。

 以下メモ。

 P154
 「日本史には英雄がいませんね」と、私が尊敬するアメリカ人が、行為をこめていったことがある。そのとおりである。英雄とは、巨大なる自己と、さらにはその自己を気球のように肥大させてゆく人物のことである。(中略)ただ私たち日本人は、それらをださない文化に属している。私はそれはそれで、日本の幸福のひとつだと思っている。

 ちょっと微妙なくだりだが英雄の定義についてはなるほど感があった。とはいえ長島茂雄とか力道山とかは英雄じゃないのかなと疑問も。織田信長なんかはちょっと違うか。司馬さんの英雄観がわかったようなわかんないような感じになった。現代で言えばイチローや中田英寿は英雄の素質があるのかもしれないが、確かに日本人的に目立ちすぎると疎ましく思う人が増えて祭り上げられるところまで行かないのは、たしかに日本人は英雄を好まないのかも、と思う。中村俊輔は自分が英雄になりたいタイプではないし。英雄論も面白い。ちなみに自分が例として挙げた人物がスポーツ選手ばかりで、これもなんだかなぁという感じだ(がっくし)。





 黒人運動家が日本はアメリカの追随者だと思っている、ということに対する反論に司馬史観のエッセンスが詰まっていた。

 P322
 「文明は大陸の多民族国家でおこるものだから、孤島に住む日本人は、それをみずから興すことを半ばあきらめている。むしろ、受益者になろうとしてきた。ただし、みずからを失うまでに受容したことは一度もなかった。(中略)アメリカに対しても、一見追随に見えるかもしれないが、この態度を文明への固有の尊敬心として解釈してもらえまいか」

 「文明」という単語には多少注釈が必要なのだが、この本の中でそれが定義されている。

 P470 解説
 文明とは「たれもが参加できる普遍的なもの・合理的なもの・機能的なもの」であり、文化とは「特定の集団(たとえば民族)においてのみ通用する特殊なもの」である。

 多種多様な民族が集まり、人数も多いアメリカだから物事がブラッシュアップされて普遍化=文明化するということ。


 P334
 黒人こそ生粋のアメリカ人

 黒人の祖先はは「自国」がない状態で奴隷として連れてこられているため、その文化がアメリカに根付いた後の黒人社会の中で育まれたため、まさに黒人こそが生粋のアメリカ人だという話。これにはなるほどと思わずにいられなかった。得心した。


 司馬遼太郎代表作『坂の上の雲』と関係の深いポーツマスの話も出てくる。1905年ポーツマス条約の舞台だ。小村寿太郎とウィッテ。日本が戦いを優位に進める中で、とはいえ日本の財政も苦しい中での講和。この講和条約では賠償金がとれなかったのだが、それに対して日比谷公園では焼き討ち事件が起き、7人の東大教授が賠償金が取れないのならば戦争を継続せよという意見を述べた。それに対する記述に普遍の真理があった。

 P379
 たしかに政府は、戦争の真の実情についての情報をわずかしか新聞社にわたさなかったはたしかである。
 しかしたとえわずかな量の情報でも、読みこみによって十分真実を感ずることができるのである。要は、真実を知ろうとするよりも、錯覚に理性をゆだねることのほうが甘美だったのである。激情を大衆と共有して中世の心に本卦がえりすることのよろこびは、近代社会の窮屈さから心理的に脱したくなる上でのカタルシス作用といっていい。それによって国家が亡びることなどは、この心理のなかではむしろ詩的なことなのである。

 これがあるがために後の日中戦争~太平洋戦争への泥沼があったのだろうと思うと、正に真理であり、日露戦争こそが日本史における重大なターニングポイントだったといえる。8月の、そういう季節だからこそ、改めてこれについては胸に留めておきたい。(これを読んだのは8月だったのをメモで思い出した)


以下書かれていた本で気になったもの。

 『怒りの葡萄』ジョン・スタインベック
   子どもの頃から実家の本棚にあったので気になっていた本。葡萄が怒る?と思ってたのだが(笑)、読まなきゃいけない本みたいだ。
 『ルーツ』アレックス・ヘイリー  これも以前から読んでみたかった本
 『ハーレムの熱い日々』吉田ルイ子(講談社文庫)

 あとは司馬本
 『長安から北京へ』(中国のはなし)
 『人間の集団について』(ベトナムのはなし)
 『街道をゆく-南蛮のみち』

 『坂の上の雲』もいつか読みなおしたい。途中まどろっこしいところも出てくるので読み飛ばしで読み直してみるのがいいかもしれない。ちなみにNHKでやってるドラマは全く見てない。
[PR]
by vamos_tokyo11 | 2009-12-29 00:18 |


<< 『21世紀の国富論』 原丈人 Jユースカップ FC東京×広島... >>