『オシムの伝言』 千田善

 ワールドカップ前にどうしても読んでおきたかった本、読了。

4622075040オシムの伝言
みすず書房 2009-12-23



 気になっていた本をやっと読んだ。タイトルから、何か日本サッカー界に対して大事なことを伝えてくれるんだろうか!?と期待して読んだが、タイトルの意味は全然違った。本の中身はオシム爺が代表監督に就任して、千田さんがその通訳に就任するところから始まる。そこから、いくつかのエピソードを織り交ぜ、ハイライトはオシムさんが脳梗塞で倒れてからの様子だろう。通訳という仕事柄、面会謝絶の状態において、医者と同じくらい昏睡のオシムさんと、そのご家族のそばにいることになる千田さんが、そこで起こっていたことを克明に記している。それだけでもこの本の価値は相当なものだと思う。

 なによりも千田さんのオシムさんへのリスペクトにあふれた文章が心地よい。千田さんはリュブリャーナに記者として駐在していたころからのオシムファンであり、ジェフ千葉の監督として来日したときに、かつてオシムさんが監督をしていたサラエボのジェリェズニチャル(愛称:ジェーリョ)のユニフォームにサインしてもらったりしている。元々それだけのオシムファンだったわけだ。ちなみに現在のジェーリョはアマル・オシム(息子)が監督をしていて、今期(09-10シーズン)優勝したそうだ(これは当然本に載っていない)。

 で、この本で何が楽しめるかというと、ひとつにはオシムさんがどこまで細部に気を使って物事を進めていたかということを知れること。代表監督の頃に起こった様々な試合や選手選考での機微がこの本を通してニュアンスまでも伝わってくる。それから本人のリハビリで垣間見せる一流のアスリートとしての意識の高さなど。我々がよく知っている哲学的なオシム像にプラスアルファして、その人となりが伝わってくるので、オシムファンには超オススメ。他にもアジアカップでカタール戦に引き分けて著者が泣いたという話の真相や、オシムさんが昏睡から目覚めて最初に話した言葉がなんだったか、と言うこぼれ話も楽しめる。(報道とは異なっている)




 自分の中ではオシム関連についてはこの2010年のワールドカップで一区切りつけたいと思っていたので、開幕前に読めて良かった。オシム爺が監督をしていたとすれば、今大会が集大成であり、最後の采配になったと思われるため、その前に自分のなかに区切りを付けたかったのだ。オシム本の最高峰はやはり『オシムの言葉』だと思うが、代表以降の本ではこれが良本だと思う。だいぶ前に『日本人よ!』を読んだが、ちょっと内容を忘れてしまった。

 ちなみに千田さんは代表通訳になる前から『ユーゴ紛争―多民族・モザイク国家の悲劇』を通じて知っていた。というか、サッカー関係の人だと思っていなかったし、ユーゴ関連のジャーナリストだと思っていたので、実は代表監督の通訳になると知ったときは、逆にジャーナリストで務まるのだろうか?と思ったくらいだった。(この本の紹介はこちら

 ところで、『オシムの伝言』というタイトルの意味だが、冒頭で「違った」と書いたが、実はこの本に書かれていることすべてが「オシムの伝言」に他ならないということが最後にはわかった。

 代表のふがいなさなどを見ても、最近は監督がどうのこうのではなく、やっぱり結局選手の問題だよなぁ、と思ってしまうことも多いのだが、やはり、この人が監督をしていたらどうなっていただろうか、と思わずにいられない。
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by vamos_tokyo11 | 2010-06-08 23:03 |


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