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『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』 加藤陽子

 今年読んだ中で一番の本。(出版は去年のもの)

4255004854それでも、日本人は「戦争」を選んだ
加藤陽子
朝日出版社 2009-07-29



 自分が「歴史好き」であることを思い出させてくれた。この本は、東京大学文学部教授が高校にて特別授業を数日間行い、その講義を元に本に起こしたもの。栄光学園中学・高校の生徒が授業を受けたらしいが、こんな授業を高校時代に受けられるなんて。。。高校の時は日本史の授業が大好きだったので、この授業を受けていたらどんなに楽しく刺激的だったか、と心底うらやましい。

 題名だけ見ると戦争を肯定するような本なのかと思ったが、全然そういうわけではない。肯定とか否定ではなく、日本を含めた当事国の事情や、それらの関係を元に、できるだけ客観的に日本の近代史を説明している。それを説明しているのが「はじめに」のこの部分。

 p8
 日本を中心とした天動説ではなく、中国の視点、列強の視点も加え、最新の研究成果もたくさん盛り込みました。日本と中国がお互いに東アジアのリーダーシップを競り合った結果としての日清戦争や陸海軍が見事な共同作戦(旅順攻略作戦)を行った点にこそ新しい戦争のかたちとしての意義があったとロシア側が認めた日露戦争像など、見てきたように語っておりますので、中高生のみならず中高年の期待も裏切らないはずです。

 俺はもう立派な中高年か。悪かったな(笑)、と思わなくもなかったが、とにかく期待を全く裏切らなかった。ほんとに今年読んだ中で一番強烈に楽しくて面白かった。


 序章 日本近現代史を考える
 1章 日清戦争  「侵略・被侵略」では見えてこないもの
 2章 日露戦争  朝鮮か満州か、それが問題
 3章 第一次世界大戦  日本が抱いた主観的な挫折
 4章 満州事変と日中戦争  日本切腹、中国介錯論
 5章 太平洋戦争  戦死者の死に場所を教えられなかった国





 本の作りは上記目次のような編年体。1章から5章まで、間違いなく面白いのだが、著者の歴史に対するスタンスに共感するという意味や、そもそも歴史ってなんで必要なんだよという観点から、序章こそがこの本のエッセンスだと思う。こういうことを教えられる人が中学や高校の先生でいるかいないかは大きな違いだろう(そもそもこの人は大学の先生だけど)。そういう意味で、この本は中高の社会科の教師は必読といえるかもしれない。


 その序章から。

p22(要約)
 2001年のアメリカ(9・11後のアメリカ)と1930年代の日本が似ている。日本は日中戦争の中で「国民政府を対手(あいて)とせず」といったり、討匪戦といって、匪賊(不法を働く一種のギャング)を成敗する戦いとして考えていた。ある意味、2001年時点のアメリカと1937年時点の日本とが、同じ感覚で目の前の戦争を見ている。


p40-46(要約)
戦争のもたらす、根源的な作用とはなにか、についての答えをルソーが書いている。『憲法とは何か』(岩波新書)にある。
「戦争は国家と国家の関係において、主権や社会契約に対する攻撃、つまり、敵対する国家の、憲法(※)に対する攻撃、というかたちをとる」

 ※ ルソーは相手国が最も大切だと思っている社会の基本秩序を広い意味で憲法と呼んでいる

 第二次大戦後、アメリカが日本の憲法を書き変えた。それでは、アメリカと日本の間で最も異なっていたものは何か。それは国体(=天皇制)。アメリカは戦争に勝利することで日本の天皇制を変えた。


p78 要約
アメリカがベトナム戦争の泥沼にはまり込んでしまったのは、1949年以降に中国が共産化してしまったことが原因。それは、かつての中国喪失の体験。満州事変、日中戦争期に、巨大な中国市場が日本に独占されるのではないかと恐れ、中国国民政府を援助してきたのに、十数億の人びとを有する共産国をソ連に接して誕生するのを指をくわえて見過ごしてしまった。この中国喪失体験が、ベトナム介入についてのアメリカの態度を強く縛った。


 2章から5章までもたくさん「発見」があったが本に寄るしかない(とても書ききれない!)ので強烈に記憶に残っているものだけ記載。


松岡洋右
 実は真っ当な外交官だったということが手紙からわかる。

胡適
 日本切腹、中国解釈論
 暗澹たる覚悟
 「アメリカとソビエトをこの問題に巻き込むには、中国が日本との戦争をまずは正面引きうけて、二、三年間、負け続けることだ」

 「世界化する戦争と中国の「国際的解決」戦略」
 『膨張する帝国、拡散する帝国』石田憲編(東京大学出版会)


満州移民
 政府が村や町に補助金を出して移民を集めさせていた。それに乗っかる地方自治体と、それに乗らない地方自治体。村のリーダー(首長)の見識によって幸不幸が決まってしまう。また、満州に行って地元民と友好に暮らしていた集落は、無事に日本に帰れたという話もある。

 『満州移民』飯田市歴史研究所編(現代史料出版)


参考文献に載っていて読んでみたい本(★は特に読みたい本)
 ★『憲法とは何か』長谷部恭男(岩波新書)
  『歴史とは何か』カー(岩波新書)
  『戦争の論理』加藤陽子(勁草書房)
  『満州事変から日中戦争へ シリーズ日本近現代史⑤』加藤陽子(岩波新書)
 ★『真珠湾攻撃総隊長の回想 淵田美津雄自叙伝』淵田美津雄(講談社)
by vamos_tokyo11 | 2010-11-10 00:30 |


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