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『朽ちていった命』 NHK「東海村臨界事故」取材班

 今年一番というか、これまで読んだ本の中で最高に怖い。久々に怖い思いをした。本を読んで息を吸うのがつらくなるというか、読むのを止めざる得なく、続きを読むのに覚悟を決めて読み進めなければならない思いをしたのは初めてだった。

4101295514朽ちていった命―被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)
NHK「東海村臨界事故」取材班
新潮社 2006-09



 この本は、1999年に東海村の核燃料加工施設「JCO」で起きた臨界事故の被曝者(作業員)の治療経過についてまとめたもので、元はNHKスペシャルで放映されたものを本にしたもの。2002年に単行本が出て、2006年にこの文庫本が出ている。

 日々原発関連情報が報道されているが、放射線の本当の恐ろしさとは何かということがよくわかった。ここに出てくるのは、今ニュースで出ている放射性物質が放っている放射線のレベルではなく、ウラン燃料の加工中にウランが臨界を起こし、中性子線を大量に(推定20シーベルト)浴びたことにより起こった悲劇の話。

 意外なことかもしれないが20シーベルトもの大量の放射線を浴びても人間は即死しない。しかも入院5日間ほどの間は医師や看護師と会話が出来ている。これにはとても驚いた。しかし恐怖は5日目以降に訪れる。放射線を大量に受けた瞬間、染色体がバラバラに破壊され、細胞は設計図を失ってしまう。つまり、もう新しい細胞を作ることができなくなる。血が作れなくなり、皮膚が作れなくなり、体内の細胞も作られなくなる。人間は日々細胞が死んでは新しい細胞が生まれていくわけだが、設計図をなくしたためにあらゆる細胞が再生できなくなる。もうこれだけで恐怖は十分に伝わるだろう。この患者さんは親族から造血幹細胞を移植することにより血液は一時的に回復する(のちにこれもはっきりとした原因が分からず駄目になる)。しかしながら皮膚は新たな皮膚がつくられることなく、古い皮膚がなくなったままになってしまう。さらに腸の粘膜や内臓も同じ状態になっていく。人間の設計図を一瞬にして破壊してしまう放射線。「朽ちていった命」というよりも「破壊された命」といった感がある。

 自分にとって怖かったのは、この中性子線の破壊力そのものだった。そしてもうひとつが治療そのもの。この治療では、とにかく医師と看護師が全力で生命を救おう、維持しようとする。ところがその甲斐なく、容態はどんどん悪くなっていく。最後のほうは、まるで心臓を動かすことだけが目的のようになっていく。その様子がとても恐ろしい。家族は当然苦しいのだが、医師も看護師も全員が苦しい。本人にいたっては苦しいのかどうかも分からない状態になっていく(途中でモルモットじゃないというような発言があり、間違いなく本人も苦しみや恐怖と戦っている)。この描写が壮絶で凄まじい。自分としては治療の過程を家族の側の立場として読み進めたが、とにかく息苦しくなる描写だった。

 放射性物質が体内に取り込まれて、それがどのような影響を及ぼすかというのは、チェルノブイリ関連の動画(youtubeにあったNHKスペシャルのもの)を見てだいぶ分かった気でいるが、放射線の影響についてはこの本を通して理解できた。放射線の恐ろしさを理解していない人にはお勧めの本。今の原発事故で起こっていることとは異なるが、放射線の本当の怖さは知っておかなければいけないことだと思う。
by vamos_tokyo11 | 2011-07-28 00:10 |


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