『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』 橘玲

 読み物としては面白い。

4344018850残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法
橘 玲
幻冬舎 2010-09-28



 この人の文章は結構好きなのだが、この本は読み物としてはとても面白かった。話の流れとか、小さないくつかの話が言いたいことに繋がっていく緻密さとか、読み手が入ってきやすい書き方をしていて、読むときに一切ストレスがなかった。やっぱり日本人には日本語で書かれた本がいいなぁ、と改めて思ったり。(この本この本も読みやすい)

 この本の目的は、本の題名にあるとおり、その「方法」を教えますよ、ということなのだが、それがこの2行だ。
伽藍を捨ててバザールへ向かえ。
恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。

 これだけでは意味がわからないが、本を頭から読み進めて、最後にこの文章の意味が説明される。そこだけ読んでも著者の言いたいことはわかるのだが、全部読んだほうが面白いと思う。謎解きがてら。

 で、問題はこの結論に同意できるのかというところなのだが、そこがちょっと・・・なのだ。

 まぁ、私はこの人の本を読むときに、自己啓発だとか投資だとかそういう方面を勉強するためだと思うのは止めたほうがいいと思ってるので、作家の書いたちょっと知的な感じの物語くらいに読んだほうが楽しいと思う。著者のブログにもこの本に出てきたマクドナルドでのバイトの話が出てくるが、ああいった箇所を読むと、この人は本当は村上春樹になりたかったんだろうな、と思わせるような書きっぷりだ。

(注意! 以下ネタばれあり)




 本の言いたい事を要約すると、

 人間の性格は生まれながらに決まっていて、これを変えることなんてできない。だから自己啓発だなんだと言って自分を変えようと思っても無駄だ。それよりも狭い日本の社会に留まっていないで、世界標準の社会で自分の好きなことをやり、ロングテールの中の一分野でトップを目指しなさい。好きなことなら頑張れるでしょ?

 というものだ。

 まず、子どもがいる人にとっては自明なのだが、人は生まれながらにして性格を持っている。まぁ、ここは良い。そして、「知能や性格は”運命”のようなもので、努力によっては変わらない(p36)」、とある。ここで引用されているのは『利己的な遺伝子』であり『人間の本性を考える』という本だ。まず、自分はこの本に非常に惹かれたので、これらを読んでみるつもりだ(すでに読み始めている→読み終わったのでこれについては別途)。

 それから、上の要約そのものについてだが、誰もがトップになれない、ということはよく分かる。それから、自己啓発して全員が変われるわけではない、というのも、まぁわかる。ただ、問題は、「ロングテールの中の一分野でトップを目指しなさい。好きなことなら頑張れるでしょ?」というところに引っかかるのだ。これをあとがきの中でも、「ここまでぼくの話を聞いてくれたのだから、君はぼくに似ているのだ」と、プッシュしているのだが、これがさらに引っかかる。確かにある面では似ているのかもしれないが、問題はそれを発揮する能力だ。著者は日本のトップの富豪ではないかもしれないが、それでも本を何冊も出していて、いわゆる成功者だ。バザールの中で自分の能力で勝負できるニッチなマーケットを見つけることは、ここで書かれているほど簡単ではない(簡単だとは一言も書いてないのだけれども)。自己啓発をしても自分を変えていくことが出来ない人は、チャレンジングな選択(何がチャレンジかという問いはあるが)をして、恐竜の尻尾に頭をみつけなければならないよ、ということかもしれない。そもそも成功する人は、それこそニッチで成功する”運命”(=能力)を持って生まれてきているのだから、果たして「ぼくに似ている」人誰もがそんなものを持ってるとは思えないのだけれども・・・。

 そんなわけで、この本を自己啓発本として読むのは止めたほうがよろしい。そう考えると不思議な位置づけの本であり、マーケティングとして大丈夫かとも思うのだが、橘玲ファンや題名に惹かれて買う人はいるのだろう。あと、この本が長谷部の本棚にもあった(こっちはコラじゃないよね?)ので笑ったのだが、これを読んでどう思ったのか聞いてみたいと思った。題名で買っちゃったのかなぁ。
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by vamos_tokyo11 | 2011-08-03 21:55 |


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