ついに完結。
ローマ人の物語〈41〉ローマ世界の終焉〈上〉 (新潮文庫) 塩野 七生 新潮社 2011-08-28 この面白くもない衰退していくローマ帝国を、何巻にも渡って我慢して読み続けたのは、ローマ帝国の最後がどのようなものかを知るためだった。そして、それを見透かしていたかのように、42巻(中巻)の冒頭にある「カバーの金貨について」の記述。 これからあなたが読むのは、情けない時代のローマ人の物語である。それでも放り出さないで読んでくれたとき、あなたは初めて、ローマ人の死を看取った、と言うことができます。 そんな好奇心からなんとか読み進めて、ついに読み終えたが、滅び行くローマ(帝国ではなく都市)を読み、とても悲しく切ない気持ちになった。後半のローマ帝国がキリスト教化していき、蛮族に抵抗することもできなくなっていきながら、帝国が4分割、2分割され、崩れていくさまを読んでいた頃は、なんだかなぁ、と思いながらパラパラと読んでいたのだが、さすがに最後まで来てしまうと悲しくなってしまった。 紀元476年に最後のローマ皇帝が退位させられて西ローマ帝国は滅亡する。ここまででも十分に帝国内が崩壊しているのだが、最終巻はここで終わらない。このあと100年ほどその後のイタリアを中心に後日談がある。後日談というか、自分的には最終巻の中ではここからの記述が実は一番興味深かった。100年ほどの間に、今のイタリア国内、ローマはどんどん破壊されていく。最初の数十年はイタリア王を名乗るゲルマン人のオドアケルの元でローマ人とゲルマン人は共生する。その中でローマ人はローマらしさを取り戻す。続いて、ゴート族のテオドリックがイタリア王となったあとも同様だった。だがその後、ユスティニアヌスの命の下、東ローマ帝国からベリサリウスがイタリア回復のため上陸してくると住民にとって悲惨な戦争が始まる。『ゴート戦役』の内容に沿ってそれが明らかにされている。人々は強盗にあい、農地は荒れ、ローマの町は破壊され、水道橋は完全に使用不可能となり、ローマの城壁も破壊される。つまり真にローマが破壊されてしまうところに悲しさを感じずにいられない(この破壊された年や理由が明確にわかっていることに感嘆するのでもあるが)。 話の前半にはスティリコという「最後の将軍」といもいうべきローマの武人(半蛮族)も現れたり、肥沃に栄えていた北アフリカが砂漠地帯として荒れ果てていく原因などが理解でき、読みどころは、やはりある。 また、最後には東ローマ帝国(ビザンチン帝国)が滅びるまでの領土の変遷が描かれており、イスラム勢力の台頭が見て取れ、ローマとそれ以後の世界が一変していることが良く分かる(地中海は「内なる海」であったが、ローマ後にはキリスト教とイスラム教の「文化を隔てる境界」に変わっていくことなど)。今の世の中を形作るものが、このローマの終焉とともに起こっている。 それにしてもローマ人たちのすごさは空前絶後だった。カエサル以後の数百年のパクス・ロマーナは、たとえ時代の流れる早さが全く異なる現代(情報量の伝達と庶民までもが多くの情報を得られると言う現代は過去から見ると異常)から見ても、信じがたい偉業に違いない。 そんな中でも古代ローマの特徴はキリスト教以前の「寛容」の精神だ。現代の覇権国にこれがあれば、と思わずにいられないが、一神教が欧州を覆ってしまった以後(キリスト教とローマ後に誕生するイスラム教)は、もはやヨーロッパ・中近東の人々には理解できないことなのだろう。また、それが古代ローマよりも現代が劣っているように見える理由かもしれない。 ローマ人の物語〈42〉ローマ世界の終焉〈中〉 (新潮文庫) 塩野 七生 新潮社 2011-08-28 ローマ人の物語〈43〉ローマ世界の終焉〈下〉 (新潮文庫) 塩野 七生 新潮社 2011-08-28
by vamos_tokyo11
| 2011-11-17 00:02
| 本
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