『故郷忘じがたく候』 司馬遼太郎

4167663147故郷忘じがたく候 (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋 2004-10



 久々に司馬遼太郎を読んだ。やっぱりすごくよかった。歴史の全体像からその時代の風景や、語られているシーンが目に浮かんできて、登場人物が目の前にいるような独特のリズム。この本は3話の短編からなっていて、長編小説のとき必ずあるダラダラとした中だるみみたいのがなかったため、より切れ味が鋭かった。

 「故郷忘じがたく候」
 「斬殺」
 「胡桃に酒」

 いずれも時代が全く異なる3編。それぞれに面白かった。

 「故郷忘じがたく候」は16世紀に朝鮮から鹿児島へ連れてこられた貴族・焼物師の子孫の話。
 最近ダイバーシティという言葉が盛んに言われるが、そういう言葉が無い時代からそれがいかに重要な意味を持つかがわかる。まぁそんな安っぽい話ではなく、朝鮮と日本の関係をある一族・個人から俯瞰することができ、非常に興味深かった。

 「斬殺」は大政奉還後に官軍が東北地方を平定しようとするとき、官軍の先鋒部隊が伊達藩へ乗り込んでいく話。この時代は生きていた人の数だけ小説が書けそうなくらいだが、ここで主人公となるのは一般的には全く知られてない長州人。当時桂太郎の上役で200人の部隊でなんとか仙台藩を動かして会津へ攻め込ませようと奔走する、役職だけ立派な小物の話。、あまり頭の切れてない人物として描かれている。叙事詩的に、歴史の中のひとコマのようでもあり、この話の最後以降の展開が読みたくなるような流れだった。

 「胡桃に酒」は豊臣政権前後の時代の細川忠興と細川ガラシャの話。この話を、細川忠興がどういうものか、その奥方が何者かをよくわかっていないままに読み進めていたため、とてもスリリングに読めた。最後のほうで、昔勉強した日本史の知識から細川ガラシャの話か、と気付き始めるが、その結末はまるっきり覚えていなかったので、後半は読むペースが早まるほど引き込まれた。

 ただ、いかにも小説で、細川忠興の行動がすべて奥方の美貌から出ているかのような書き方に少し不自然さも覚えつつ、しかしその実際の歴史的事実を読むと、あながち誤ってもいないような、まさに忠興が狂人であるような、この時代にしか生きられない人物のように思われた。ほんとに見てきたかのように、情景が目の前に現れる描写はやっぱり面白いし迫力がある。


 3話ともそれぞれ時代が全く異なるが、本流を取材するうちに気になる脇役が出てきてスピンアウトさせたかのような物語たちだった。こういうところまで司馬遼太郎色がハッキリ出ていて、さすが、という感じ。
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by vamos_tokyo11 | 2012-09-06 23:38 |


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