『エネルギー論争の盲点』 石井彰

 エネルギーに対する歴史的洞察からの観点がわかりやすい。

4140883561エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)
石井 彰
NHK出版 2011-07-07



 人類文明の歴史からエネルギー源と消費量がどのように変わってきたのかを考察し、そのようにまず全体を俯瞰してから各論に入っていく説明のしかたがわかりやすい。新書なのに中身が濃かった。

 興味深かったところをメモ。

p40
 人類は、加熱調理することにより、内臓に掛かっていた負担を軽減。その結果、摂取エネルギーを脳に回せるようになった。例としてタマゴは加熱により2倍も消化がよくなる。その結果として、
「人類は、外部エネルギーとしての火の利用によって身体的に「誕生」し、そこから長き荷わたる文明社会とエネルギーの関わりが始まった。」

p68
 石油がエネルギーのチャンピオンになった理由を説明。
 ポイントはエネルギー算出/投入比率
①重量、体積あたりのエネルギー量の多さ
 同体積・重量の石炭の2倍、同体積の水素の3000倍、天然ガスの1000倍
②使い勝手が良い
 常温常圧下で液体、揮発性も高くない、どんな容器でも貯蔵、輸送が可能
③石炭に比べて環境負荷が低い
 汚染物質排出が極めて低い、CO2でも2~3割低い
 1950年代の霧のロンドンの霧はスモッグのこと


p90
 エントロピーの説明
 例えてみると、エントロピーが低い状態(高効率・高密度)は部屋が片付いてきれいな状態、エントロピーが高い状態は部屋の中が散らかりまくりな状態。低→高の状態は自然に起こるが、高→低の状態は自然には起こらないというのが「エントロピー増大の法則(熱力学の第二法則)」

『エントロピーと秩序 - 熱力学第二法則への正体』(ピーター・アトキンス) 素人にも分かりやすいらしい
『混沌からの秩序』(プリゴジン) 散逸構造についての説明。歴史的名著らしい


p110
 電力業界資料のウソ。
 3.11以降、電力業界の話はほとんど信じられなくなったが、電力業界が指標として出している火力発電の指標は、石炭火力の従来式スチーム・ボイラ型の火力発電所の数値を掲載していることが多いらしい。既に標準化されているコンバインドサイクル発電のものであれば、1.5倍の発電効率で、同じ発電量の場合CO2排出量が3分の2にもなるそうだ。発電所の建設も必要面積がより小さく、期間もコストも低くてすむらしい。


p114
 あてにならない「カタログ性能」
 実際の太陽光発電の性能は、カタログ値=MAX値の11~12%程度らしい。これは、カタログ値が夏至の日の南中時の快晴の瞬間最大発電能力を表しており、朝夕、曇り、夜、雨天などを加味するとガクッと数値が落ちることを意味している。そりゃそうか。

 これとは別に、原子力はプルトニウムを再利用できると書いているけれども、プルトニウムだけで燃料棒が作れるわけでなく、廃棄するプルトニウムのほうが圧倒的に多いのであるから、あまりリサイクル能力を評価すべきではないと思う。他に廃棄の問題とか、最終処分の問題、など他の発電施設とは違う問題も出てくる。


p128
 ドイツが原発をやめたことについて
 ドイツの全発電量の42%はCO2発生量が最も多い石炭火力発電。もうひとつ見落としがちなのが、ドイツは近隣諸国から電力を輸入できる。原発発電大国のフランスからも輸入できるし、実際にしている。


p132
 再生可能エネルギーが救世主になると考えている人は、武田徹著『私たちはこうして原発大国を選んだ』の一読をオススメする。


 著者は天然ガスのコンバインドサイクル発電を推進すべきだと述べており、その背景として天然ガスの比較優位性を説明している。原発推進、原発ゼロの二元論に陥ることなく、しっかりと代替策を提言して、非常に説得力があった。エネルギー問題を考える上で良書であった。また、各章の終わりにある解説補足も非常に丁寧でわかりやすく、親切であった。
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by vamos_tokyo11 | 2012-12-08 02:08 |


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