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『ノルウェイの森』 村上春樹

 いつか読んでみようと思っていた本、「ノルウェイの森」を読んだ。1987年9月書き下ろしなので、僕が15歳になる少し前に出た本だ。覚えているのはベストセラーになっていて、ちょっとした社会現象になっていたことくらいだ。

 去年クロアチアのドブロブニクへ行ったとき、空港から旧市街へ向かうバスの中で、隣になった韓国系オージーの女性に村上春樹が好きだと言われ、僕は村上の本を一冊も読んだ事がなかったので、これはいつかは読まなければいけないと思っていた。いろいろ見てみると村上春樹は海外でも人気が高く、「ノルウェイの森」は中国では100万部以上売れているらしい。

 この本は当時(今も?)は恋愛本として人気があったらしく、帯広告もそういう宣伝文句だったらしい。しかし、僕には全く恋愛本だと思えなかった。(そもそも恋愛本だと言われたら手にとっていなかったかもしれない)

 読後感、というか読んでいる最中の気持ちとしては、誰もが経験するようなことをひっくるめて書かれているようで、自分の経験に投影して読み進めると、切ないような、懐かしいような、そういう気分にさせられた。友人や誰かの死であったり、恋愛も含めてそうなのだけれども、35年生きていると、これまでどこかで経験しているものが多くて、なんとも言えない気分になった。

 友人が自殺したりしたことはないし、やたらとモテまくって女の子とソッコーでホテルに行ったり、ということは経験上ないけれども、「小説の中のことだからな」と割り引いて読めるくらいには自分も大人になっているし、だからこそ、これを二十歳の頃に読んでいたら随分違った気持ちになるんだろうな、と思いながら読んでいた。二十歳の頃にこれを読んでいたら自分がどう感じていただろうか、というのはとても興味深い。ひょっとしたら主人公ワタナベの恋愛に自分の恋愛を重ねて読んでいたのかもしれない。

 最後の最後にレイコとワタナベがどちらからともなく事に及ぶ展開は、唐突な感じが否めなかったけれど、お互いにこれからの人生を歩む上でひとつの区切りを表しているように読み取れたし、直子の死を乗り越えて俗世に戻ってくることを意味しているとも読み取れた。さらに、レイコが直子の洋服を着ている、ということでワタナベがレイコに直子を投影しているようにも読めた。

 本を読んで感じたのは、恋愛や友人・恋人の死も「人生」の一部であり、我々はそれを受け入れて生きていくしかない、ということだった。それが本のテーマだと思ったので、恋愛本として売られていた、というのはしっくりこなかった。(二十歳の頃に読めば違ったのかもしれないけれど)

 本編を貫いているのは死であり、最も印象的な言葉はこれだった。
 「死は生の対極にあるのではなく、我々の生のうちに潜んでいるのだ」

 主人公の友人キズキは17歳のときに自殺したので永遠に17歳のままだ。この気持ちはとてもよく分かる。僕も友人を大学1年のときに亡くしたが、彼はずっと大学1年のままだ。二十歳になっていない。そして彼の死は僕ら友人の生の中に生き続けている。この間も江戸川橋駅からある場所へ歩いて行く途中に彼の墓のあるお寺の前を通ったので、彼に話掛けながら歩いていた。そうやって彼はまだ生きている。(余談だが、色んな歌に出てくる「only the good die young」はこういうことなんだと思う)

 この本には性に関する描写が多数出てきてて、これについて否定的な見方をする人もいるようだ。僕は別に賛成でも反対でもないけれど、これらが全てなくなれば随分味気ない感じがするだろうし、性描写の生々しさがあればこそ、生と死が浮かび上がってくるような気がするし、まぁこういうものじゃないのだろうか、小説だし。確かに言われてみれば、やたらと「そういう女性」しか登場しないのはおかしいけれども、それが小説なんだと思う。

 あと、おまけとして、と言うにはこの本の(というか恐らく村上春樹の)魅力なのだろうが、風景がリズミカルに、論理的に、細部にまで描写されていて、映像が「すっ」と頭に浮かんでくるのが美しかった。読むのが遅い僕でさえ、非常に読み進め易かった。街の描写はかなり気持ちよかった。

 また別の村上本も読んでみようと思った。とりあえず次はこの本の中にも出てくる「グレイト・ギャッツビー」の村上訳を読んでみようと思う。あんまりこういう小説は読んだ事がなかったので、これからオフシーズンにぴったりかもしれない。そう思いつつ、今日買ったのは「サッカー批評」だったりするのだけれども。

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by vamos_tokyo11 | 2007-12-14 00:08 |


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