『カラシニコフ』、『カラシニコフⅡ』の著者松本仁一氏のアフリカに特化したレポート。
アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々 (岩波新書) 松本 仁一 岩波書店 2008-08 『カラシニコフ』に続くアフリカもの。これぞ新聞記者という感じのまさに体当たりのレポートが読める。『カラシニコフ』と重なることが多いが、銃ではなくより現代問題的な観点からアフリカの問題を切り取った好著。政治体制などの大局と個人のインタビューを交えて非常にわかりやすく書かれている。新書サイズだが中身は濃い。 第1章 一人の独裁者が現れたことにより農業優等国だったジンバブエが崩壊する様子は衝撃的だ。ジンバブエ自体がどこにあるかもわからなかったし、その国についてなにひとつ知らなかったがムガベの名前は覚えておかなければならない(ムガベは当初は英雄だっただけに始末が悪い)。最近ハイパーインフレでゴシップ記事のようなニュースになることが多いが、それがどれほどの悲劇なのか、これを読めば多少理解できる。 第2章 南アの治安の悪さ(パトカーに同乗して取材!)をルポ。そしてジンバブエ・南アともに解放闘争を行った指導者たちがどうしてこのようにすぐに腐敗していくのかということを指摘している。①部族単位の考え方が残っていて、まずは自分の所属部族を食べさせることが第一で、それがリーダーの「優れた資質」であるということ(=アフリカの常識が我々の常識と異なる)。②アフリカの独立政府指導者には危機感がなかったこと。国家形成を急がねば他国から武力侵攻を受けて滅ぼされるという危機感がなかったこと。そのため指導者は形骸化した国家の中で安住し、国民国家の形成に真剣に取り組まなかったというもの。 ここで筆者は明治維新で藩閥を越えて日本が国づくりできたのは、国づくりを早くしないと西欧やロシアなどに飲み込まれてしまうという恐怖があったからだと指摘している。アヘン戦争でボロボロにされた清を見ていただけに藩閥争いよりも国家形成を優先せざるをえなかったに違いないと指摘している。 第3章 アフリカに進出する中国人。昨年辺りから新聞でも報じられていたが、国連や欧米から経済制裁を受けるような国のうち、豊富な資源を持つ国に中国は積極的に関与している。国が発展する中で石油や鉱物資源が不足し、資源の獲得ルートを確保を目指してのことだということ。これを深く掘り下げている記事を見たことがなかったので、本章は非常に貴重な取材になっている。いわゆる新植民地化。開発はするが現地の人を採用するわけではなく中国から労働者を連れてきているため、現地の人たちは一切豊かにならない。この問題はスーダン、アンゴラで見られる。 第4章 日本にきたナイジェリア人、パリに住むマリ人の話。国から逃げざるを得ない現状を記載。 第5章 農業生産システムが独裁者によって壊されたジンバブエでORAP(地方農村発展協力機構)という組織が活躍し始めている明るい話題。結局お金を上げるのではなく、その人たちが自立するための助けをすることが将来のためになるという話。よく言われることだがパンをあげるのではなく、パンの作り方を教えなさいということだろう。『カラシニコフ』にも出てきたが南アのソウェトの自立し始めた人々の話も出てくる。 第6章 ケニアのケニアナッツ社の佐藤芳之氏、ウガンダのフェニックス・ロジスティクス社の柏田雄一氏の2名の話。アフリカで会社を興し、現地の人々を採用し事業も人も育てている話。柏田さんの話はどこかで聞いたことのある話だった。あと、セネガルの生ガキ屋台を日本の青年海外協力隊員がサポートしている話もあった。結局これも自立するためのサポートと同意であり、カネをあげても仕方がなく、カネの稼ぎ方を教えてあげるということだろう。 希望のあるような終わりになるのだが、巨額のODA援助は真に国民のためになっていないという問題は残っている。また『カラシニコフ』『アフリカ・レポート』の2冊を通じて新たな疑問も湧いてきた。失敗国家とそうでない国家を隔てるものはなんなのか。たとえばナイジェリアは莫大な産油国だが国民は豊かではない。しかし中東の各国は国民レベルで豊かだ(ただし出稼ぎで流入している人々を除く)。この差はどこから来たのか、それについてここしばらく考えていたが答えはでなかった。なぜなのだろうか。文化(アフリカの常識)の違いだけでは片付けられないと思うのだが疑問のままだ。
by vamos_tokyo11
| 2009-01-26 22:51
| 本
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