ほぼ皇帝のような位置を占めるところまできたカエサルが死に、その後釜にカエサルにより指名された養子のオクタヴィアヌスが皇帝となりローマによる平和を構築していくさまが描かれている。
ローマ人の物語〈14〉パクス・ロマーナ(上) (新潮文庫)
新潮社 2004-10
いわゆる皇帝と聞くとなにもかもを手に入れた状態で即位し、豪奢で勝手な振る舞いをしているイメージがあったのだが、ローマ帝国のそれは全く違っていたらしい。共和制へ戻そうとしたブルータスらによるカエサル暗殺を経ているため、その揺り戻しを防ぐところからスタートし、徐々に実質的な皇帝となり、その地位を固めていくところが面白い。この「徐々に」というところが不思議で面白い。ローマ市民、元老院、軍から信頼され、尊敬されていなければその地位が保全されないのがローマ皇帝ということらしいのだ。その地位を背景に圧政を強いて、税金を吸い上げるような恐怖国家をイメージしていたが全く違った。そもそもそんなことでは国家としてあれだけ広大な領地をあれだけの長い年月に渡って保持できるわけがないということだ。事実、オクタヴィアヌス以降の皇帝は護衛に暗殺されたり、元老院とローマ市民の支持を失って自殺に追い込まれてしまうというのだから、いわゆる「王様」とは随分違ったようだ。
またローマ支配化の地域においても、皇帝直轄地、ローマ市民権の与えられている領地とその次のクラスの領地、属州、元老院直轄地、同盟国などさまざまな形態が取られ、そして土地土地の文化を尊重して自治を任せて統治させていたというのが面白い。
ローマ帝国と言うと皇帝の国というイメージがこのシリーズを読むまでは強かったが、その皇帝も実質的にここから始まっている。著者が言うように大きな戦争を繰り返しやっていた時代ではないため、物語にするのが難しい巻なのだが、それでもローマ帝国、皇帝がどういうものなのかということを知る上ではなかなか勉強になった。
ローマ人の物語〈15〉パクス・ロマーナ(中) (新潮文庫)
新潮社 2004-10
ローマ人の物語〈16〉パクス・ロマーナ(下) (新潮文庫)
新潮社 2004-10