2011年に読んだ本はここまで。年末にして今年最高クラスの本。
宇宙からの帰還 (中公文庫) 立花 隆 中央公論新社 1985-07 ものすごく面白かった。今となってはなぜ1983年刊行のこのような古い本を読もうと思ったのかは忘れてしまったのだが、この本を読んでほんとうに良かった。 著者のことは昔テレビのニュースで見たぐらいしか知らない。政治評論する人で、田中角栄の本で有名になった人らしい、くらいにしか知らなかったのだが、この本を読んで、その書き方のわかりやすさに驚いた。本は、1960~70年代のアポロ計画で宇宙・月に行った宇宙飛行士たちに、宇宙に行った後に本人たちに起こった出来事(特に心理面での)をインタビューを中心に書かれたもの。宇宙飛行がどれほど困難であるかが冒頭に科学的に書かれていて、これによって宇宙飛行士のすごさの一端が理解できた。数学や物理学にまったく疎い私には、100%理解することはできなかったが、宇宙へ飛んでいき、地球へ帰ってくることがどれほどすごいことなのか、というのは理解することができた。 この本で最も興味深かったのは、本の趣旨でもある、宇宙飛行士たちが宇宙へ行って感じたことについて。宇宙から帰ってきて宗教家になった人、精神に破綻をきたしてしまった人、実業界や政界で成功を収めた人、など様々なタイプが紹介されている。なかでも際立つのが宇宙で神を感じたという人々の多さだ。宇宙船のなかでの多忙な作業の中、ふとした余裕時間の中で地球を見るとき、自分のそばに神を感じたと言う。神を信じているわけではない自分にとってはオカルトのような話しだが、宇宙から地球を見るという、何人にも経験できない経験をなしえた人だけの感覚なのかもしれない。そう思いつつも、そこにキリスト教のベースがあるのは間違いないだろう。 そういった話の中で、自分にとって割とわかりやすく納得できたのが同じ宇宙船に乗ったエド・ギプスンとジェリー・カーの話だ。簡単に要約できないのだが、以下のようなことを述べている。 エド・ギプソン (P303~) ・宇宙から地球を見ていると国家の対立、宗教の対立は馬鹿馬鹿しく感じる (宇宙船は数十分で地球を一周するのでいろんな地域を俯瞰して見れる) ・特定の宗教を信じてはいないが宗教心を持っている ・科学はあるレベルの無知を別のレベルの無知に置き換えているにすぎない 例)ある物資のレベルを分子レベル→原子レベル→素粒子レベル→その先は不明 ・根源的な『なぜ』、存在論的な『なぜ』に科学は答えられない ・なぜ宇宙は存在するのか。科学は答えられない ・もうひとつの限界は知覚の問題 五感で感じられないもの、つまり外部センサーにも内部センサーにもひっかからないものは 存在しないものとみなされる しかし存在しているが適当なセンサーがまだないというものはまだいくらでもあるだろう それで外界のすべてを知っているというのは傲慢である ・わからないものがいくらでもあるから宗教の存立の余地がある。 ・しかし宗教がすべてを知っているわけではない、だから既成宗教の教義を信じていない ・私がとる立場はわからないとするのが正しいとする積極的不可知論 ・この不可知論の中にほんとうの宗教性がある ・我々の宇宙はとてつもなくよきものである そういうものとして我々の前にある それでよいではないか。そこから出発しようという立場だ ジェリー・カー (P311) ・宇宙体験以後は他の宗教の神も認める ・アラーもブッダも同じ神が別の目で見たときにつけられた名前にすぎないと思う ・人格神ではなく、神とはパターンであると思っている ・宇宙においては万物に秩序があり、すべての事象が調和し、バランスがとれており、 つまりそこにはひとつのパターンが存在するということを発見した。 ・昔から人間はそういう秩序、調和、バランス、パターンがあるということに気がつき、 その背後に人格的存在を借定して、それにさまざまな神の名前を与えた ・つまり、存在しているのは、すべてがあるパターンにしたがって調和しているというひとつの現実であり、 あらゆる神はこの現実をわかりやすく説明するために案出された名辞にすぎない ・あらゆる宗教に共通しているのがこのパターン ・人格神の存在、あるいは人格神のメッセージを伝える預言者の存在は必ずしも宗教の必要条件ではない ・要するには世界は調和して在るということだ。調和して在るあり方がパターンだ。 神とは何かというような話ではこのふたりの話が自分には割としっくりきたが、積極的無宗教者であるラッセル・シュワイカートの話も興味深かった。というか、私も子どものころ考えたようなことなのだが、宇宙に始まりはなかったという考え方をとっている。つまり、ビッグバンのような始まりはなく、どこかでぐるぐるとつながっているというような考え方をとっている。われわれが一般的に感じているような、時間の概念、ものごとが一方向に進んでいくような考え方ではなく、時間はループしているというような考え方である。彼の考え方はラブロックの『ガイア』に対して共感するそうだ。 人間とは何か、自分とは何か、地球とは何か、宇宙とは何かと考えることは最近では全くといっていいほどなくなってきたが、考えてみれば小さい頃はよくそういうことを考えていた。小学生の頃、冬の寒空に星を見ながら歩きつつ、自分はどこからきたんだろう、なぜここにいるんだろう、と考えていたことを思い出した。そのときは、考えているうちに、果たして地球はどうやってできたんだろう、宇宙はいつからできたんだろう、これから宇宙はどうなるんだろう、と考えて頭が混乱して収拾がつかなくなって、着地点のないまま考えが終わっていたのだけれども、そんなことを思い出した。この本はそんな時代のことを思い出させてくれる、わくわくさせてくれる本だった。 立花氏による、日本人宇宙飛行士にインタビューした同様の本が出ているようなのでそっちも読んでみたいと思う。 『宇宙を語る〈1〉宇宙飛行士との対話 (中公文庫)』
by vamos_tokyo11
| 2012-01-14 02:00
| 本
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