これはめちゃくちゃ面白かった!
『下町ロケット』が面白かったので池井戸潤の作品を読んで見ようと思って手にとった。読み終わった後、文庫本下巻のあとがき(大沢在昌という贅沢さ)で知ったのだが直木賞候補作だったそうで、それも納得のできだった。『下町ロケット』のときも感じたのだが、この人は人物の描き方にリアリティがある。いろんな立場の登場人物が出てくるのだが、その人たちそれぞれが、その人生が浮かび上がるような描き方をしていて、キャラが自然で納得感があるのだ。その職業としてのふるまい、仕事上の立場としてのふるまい、父・夫としてのふるまい、敵対するような立場の人物が多数出てくるのだが、それぞれのキャラクターに矛盾がなく納得感がある。主人公は運送屋の社長だが、そこに自動車会社、刑事、銀行員(著者は元銀行員なので職業としてのリアリティがすごい)、がそれぞれの論理で動く。ここの描き方が巧みであるので、話が魅力的になっていく。
それでもリアリティがあるだけではお話として面白くならないわけで、エンターテインメントとして悪者を徹底的に悪くしたりして、最終的にすっきり気持ちよく読み終わって、「あー、楽しかった!」という感覚にしてくれる。映像が浮かび上がるようで、本を読み終わったときにはまるで映画を見終わって、映画館を出るときのような余韻に浸れる。
ところで、タイヤが飛んで母子殺傷事件が起きる、というのは三菱ふそうトラックのあの事件そのものなのだが、話の中身はまったくのフィクションだそうだ。それを知らずに読むと、こんな経緯があったのかと思ってしまうのだが、どうもそうではないらしい。三菱銀行で働いていた著者は、その銀行(明らかにそれとわかる設定)をだいぶ辛らつに描いている。『下町ロケット』のときも三菱重工っぽいところが悪者になっていたし、この話でもグループのことを辛らつにこき下ろしている。内部事情を知ってるだけに三菱グループが嫌いなのかもしれないな(笑)。