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『採用基準』 伊賀泰代

4478023417採用基準
伊賀 泰代
ダイヤモンド社 2012-11-09



 マッキンゼー社の採用担当だった人が、マッキンゼー社の採用基準について述べているので、これからマッキンゼー社に入りたい学生・転職希望者としては読んでおくべき本と思われるが、それ以上に、著者が考える日本社会に不足している人材への思いが強く感じられる本だった。

 副題は「地頭より論理的思考より大切なもの」とあるわけだが、著者が最も大切としているのはリーダーシップである。しかし、勘違いしてはいけないのは、最も大切なのはリーダーシップ。これは絶対ないとならない。でも、地頭と論理的思考力も当然ながら全くないのはNGで、多少ある程度でも恐らくダメ。ちゃんとこの2つが高度に備わっていて、その上で強烈なリーダーシップが備わっていないとM社ではやっていけませんよ、ということだと思われる。

 M社のことだけではなく、今の日本の世の中に不足しているのは「リーダーシップ」であり、どこの会社にとっても必要なものだという主張で、さらにいえば、どこの会社も言っている「グローバル人材」育成なんてのは間違っていて、真に必要なのは「グローバルリーダーシップ」だろう、ということを主張している。英語がしゃべれてダイバーシティに理解があればグローバルに活躍できる、となるわけがなく、日本語で仕事もできないような人がグローバルに仕事ができるわけがないので、一般に言われる「グローバル人材」は自動的に「グローバルリーダーシップを持つ人材」を意味していると、自分的には思っているので、まぁ、このあたりの噛みつき具合はなんか無理やりっぽい感じもする。

 それにしても学生時代の就職活動であまりものごとをよく考えていなかった自分からすると、この本に出てくるような「M社でこうやって働きたい」と明確な意志を持っている人たちを自分は素直に尊敬する。そして、社内旅行の幹事となり、旅行の行き先を決めようとすると「その場所の意味は?」と猛烈に突っ込まれて深く考えてから決めないとならない話とか、どんな雑用でも積極的に進んでやり、面倒くさいとか、誰かがやればいいとかの考え方とは無縁のメンタリティとか、暑苦しさ満点で、自分には絶対にこういう仕事はできないなと思わせてくれる。

 とはいえ、著者の考える「リーダーシップ」というのが、常日頃自分が職場で後輩たちに不足しているものだと同感するところでもあり、非常に得心しながら読み進めた。ただ、どうすればこれを育てられるかを書いている本ではないので、そこの答えは出ない。しかし、「リーダーシップ」とは何かということを言葉を尽くして説明しているので、この本はM社の採用基準を語ること以上に「リーダーシップ」とはこういうものだ、ということを整理して言語化しているところに、この本の価値があると思う。


引用メモ


P38
(コンサルタントは)「考えることが楽しくて楽しくて」という人でないと(中略)不可能です。
→私の中途半端な考える力では無理だな。。


P50
分析が得意で理解力が高く、洞察が深いだけでは「頭がよい(intelligent,smart)」とは呼ばれない。最もインテリジェントだと思われているのは、構築型の能力がある人。
「独自性があり、実現したときのインパクトが極めて大きな仮説を立てる能力」(仮説構築力)であり、「ゼロから、新しい提案の全体像を描く構想力や設計力」」

→なるほど。でもそりゃそうだ。日本でこういう人が評価されるのはアカデミックな世界だけと書かれているがそうなのかもしれないし、違うのかもしれない(自分の知ってる世界だけでは答えが出せない)。でも、構築能力があり、それを実行する力があれば、それは評価されると思うのだけどな。しかも相当に高い評価をされるはず。問題はこういう方向に考える力を使っていない、使わずに仕事ができてしまうところにあるようにも思う。こういう能力が有効になってくるのは管理職でも相当上のレベルのポジションについてからだろうか。


P112
自分の実力を超えた仕事を任されている人は、「きちんと結果を出すべき重要な仕事」と「時間をかけるべきではないインパクトの低い仕事」を分け、優先順位をつけて取り組まざるを得ません。結果として、限られた仕事時間内においては、重要な仕事だけを手がけています。

→このあと普通に仕事をしていれば時間に終わってしまう人は全部きっちり細部まで詰めて仕事をやっても完成する時間の余裕があるので、高い視点で優先順位を見極められなくなり、すべてにおいて重箱の隅をつつくような仕事になってしまう、と続く。
まったくそう思う。でもそういう人には怖くて重要な仕事を与えられないのであーる。


P140
バリューを出す
→常に自分が組織に何か貢献したかを考える。打ち合わせでもごく短い時間の中でもバリューを出すことを求められる。


P142
ポジションをとる
「あなたの意見はなにか」「あなたが意思決定者だとしたら、どう決断するのか」
→中堅以上、管理職未満であってもこういう姿勢は求められると思うが、新人コンサルタントであってもこれを求められるのがM社ということらしい。


ところで、著者のブログだろうといわれているこちらのブログのこのエントリにほぼ同じことが書かれている。
これ読んどけばいいんじゃないかという気もするが、まさに「リーダーシップ」を言語化している。なんてわかりやすい例え!普段みんなが会社で感じていることをこう文章にするというのはすごい能力だなぁと感動。


リーダーがなすべき4つのタスク
 ①目標を掲げる
 ②先頭を走る
 ③決める 
 ④伝える


P219
リーダーシップにより、自分が気になっていた問題が解決できる
→リーダーシップは国・社会のために身につけるものではなく、自分のために身につけるもの
自分の行きたいところへ自分で行けるようになるために必要なもの
by vamos_tokyo11 | 2013-06-26 23:44 |


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