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『大地の子』 山崎豊子

 これは壮絶・超絶な本。絶対読まなければならない本。

大地の子〈1〉 (文春文庫)大地の子〈1〉 (文春文庫)
山崎 豊子

大地の子〈2〉 (文春文庫) 大地の子〈3〉 (文春文庫) 大地の子〈4〉 (文春文庫)



 『二つの祖国』を読み、その内容と描写に息を呑み、こんな凄い本はないなと思っていたら、それを凌ぐ内容と描写で愕然とした。読むまで知らなかったのだが、『二つの祖国』のあとに綿密な取材をしつつ8年掛けて書かれたのが『大地の子』だった。そういう意味でも、読んだ順番も良かった。

 あらすじはWikipediaにすべて書かれている。筋がモロに載っているので小説を読む前に見たら、それはもう面白さが激減するので注意。

 中国残留孤児の話だという情報だけで読み始めた。ちなみに山崎豊子氏は「残留」という言葉には自分で残るという意志を感じさせるということで、「戦争孤児」という表現を使っている。この物語のスタートである敗戦間際の満州におけるソ連侵攻からの描写を見ればそれがよく分かる。もう、とにかく、こんなことが本当にあったのかと思うくらいドラマチックで凄惨だ。自分が子どものころ、テレビで中国残留孤児の肉親探のニュースを頻繁に見た記憶があるが、そのとき親に説明してもらって聞いていたものとは別個の、全く悲惨な内容だった。なぜ残されなければならなかったのか、そうならざるを得なかったのか、それがよくわかる。この一点をもってしても、日本人として読んでおかなければならない本だと感じた。

 こんな内容で4巻も話が続くんだろうか、果たしてこのあとどうやって物語が進むのかと思っていたら、これまた想像以上の(というか斜め上を行く)内容だった。この辺りは「いかにも小説」という箇所もある。以下多少のネタバレあり。


 最も印象に残っているのは、やはり冒頭の部分。ソ連軍の攻撃で母親が死に、兄妹でなんとか生き延び、牛馬の様に使役される中なんとか逃げ出し、育ての親に助けられ、国共内戦の中で長春を脱出するまでの壮絶な期間。『不毛地帯』の話も凄まじかったが、戦争が引き起こす恐ろしさと残酷さが濃密に描かれている。著者は長編小説においては最初が肝心だと書いていたが、まさにこの冒頭の話でやられた。あまりにこの本が凄すぎたので、著者の取材の内容や、この本にかけてきた著者の思いが知りたくなり、小説を読み終えてすぐの今現在、いろいろと周辺の本を読んでいる。他の小説の様に主人公そのもののモデルがいたわけではないようだが、戦争孤児を取材したときのエピソードが小説とほぼ同じで、一部輪を掛けてえぐいものであり、戦争が引き起こすものから決して目を逸らすな、という著者のメッセージを改めて感じた。

 その後の文革での冤罪による労改(ラオガイ:刑務所)での使役や拷問、文革後の出世と妹・父親との再会・葛藤、どれも主人公である陸一心の気持ちが痛いほどわかり、非常に胸を打った。著者が精魂込めて書き上げたという気持ちがぶつかってくる内容で、長く心に残り続ける衝撃的な内容。
by vamos_tokyo11 | 2013-07-15 18:41 |


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